ヒストリー・製品年表
- 1970年代
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[AQ-1] 1972
国産初のデジタル微量水分測定装置[AQ-2] 1975
測定時間短縮、測定精度の向上[AQ-3B] 1979
バックグラウンド自動補正
- 1980年代
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[AQ-101] 1980
一室電解セルの採用[AQ-5] 1982
マイクロコンピュータ、プリンタ内蔵[AQV-5] 1983
力価標定、逆滴定の自動化[AQ-6] 1987
測定条件ファイル採用、天秤およびコンピュータインターフェース標準装備
- 1990年代
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[AQ-7] 1992
測定条件12ファイル、バックライト付き液晶表示器、測定時間短縮、ブランク自動入力[AQV-7] 1994
20桁2行表示、ツインビュレットに対応[AQV-200] 1996
コンパクト、低価格モデル
- 2000年代
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[AQ-200] 2000
コンパクト、低価格モデル[AQ/AQV-2000] 2001
グラフ表示機能、2チャンネル切換測定、GLP対応機能搭載[AQ/AQV-2100] 2004
カラー液晶表示器搭載[AQ/AQV-300] 2005
コンパクト、低価格[AQ-2200] 2009
カラータッチパネル、USBメモリ、LAN、一室電解セル[AQV-2200] 2009
カラータッチパネル、USBメモリ、LAN、新型シリンジ
- 2010年代
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[AQ/AQV-2250] 2011
パソコンタイプ[AQ-2200A] 2015
水分/滴定同時測定、ユーザー権限[AQV-2200A] 2015
水分/滴定同時測定、ユーザー権限[MOISTAR-A18] 2018
定量下限1μg[MOICO-A19] 2019
表示器角度可変、音声ガイド[MOIVO-A19] 2019
表示器角度可変、音声ガイド
水分測定の未来を変えた微量水分測定装置
電量滴定法によるカールフィッシャー水分測定装置の開発実験
研究室での実験に使用していた装置はRAT-1にFAT-1(電量滴定用アタッチメント)を接続し、電解セルを用いていた。この電解セルは、陽極セルと陰極セルの中間に配置されたイオン交換膜を隔てた左右対称な構造であった。電解セルフタはPTFE製で、気密を保つためにシリコンゴム板をパッキンとして挟んでいた。電解液としてはKF試薬が使用され、発生液(陽極液)としては過剰のヨウ素を、水を加えて消去してから使用していた。
一方、対極液(陰極液)としてはKF試薬をヨウ素過剰のまま対極室に加えて使用していた。終点の検出用電極としては、白金とタングステンの複合電極または双白金電極が使われた。白金とタングステン複合電極は、RAT-1によるKF容量滴定で実績のあった電極で、分極せずに電位差滴定で測定が行われており、双白金電極を用いた場合は、分極電流を加えた定電流電位差滴定が使用された。
以上のような実験装置を用いて、約1年近く要素開発が行われたのである。
KF電量水分測定装置の開発は、難問てんこ盛り
また、一測定に約10分を要し、実用化までの道のりは、遥か先の様に思われた。
この実験装置を用いて終点検出法および電解液などについてさらに数ヶ月に渡り検討されたが、現状の実験装置および電解液では目指す水分測定装置の開発が困難であることが報告された。
その主なる要点は以下のようなものであった。
- 新しい発想による電解液の開発。水分測定用の専用の発生液と対極液。
- 電解セルの開発。
- 高出力電圧の定電流電源の開発。
- 明瞭な終点が得られる終点検出法とブランクの自動消去方法の開発。
難問解決の糸口
KF反応の終点はなぜ不明瞭なのであるか。
この原因は、KF反応速度が遅いことが関係しているようであり、終点検出の問題ではないと推測された。
KF反応は平衡反応であるから、電解液のSO2濃度を増やせばKF反応は促進される。そこで市販のKF試薬を多量に電解液として使用し、SO2 濃度を増やそうとすると、過剰に含んでいるヨウ素を水で消去してから電解液とするため、SO2が消費されてしまい思い通りにSO2濃度を増やすことが困難であることが分かった。
高濃度SO2-ピリジン溶液製造へのチャレンジ
高濃度SO2-ピリジン溶液の必要性から製造実験が計画され、試薬製造という全く未知の分野への挑戦がはじまった。
SO2は常温では気体であるが-12℃以下に冷却したピリジンに通気すればSO2-ピリジン溶液が得られることが分かった。
始めに、SO2を液化するためのガラス製の冷却器をガラス加工メーカーに製造を依頼。
原料となる二酸化イオウガスは、川崎にある会社から10Kg入りボンベを販売してもらうことができた。
さて、いよいよSO2を液化捕集する実験の段取りが完了し、冷却剤としてドライアイスを大量に購入し、冷却器に小分けして投入した。冷却器が冷えた頃を見計らって、SO2ボンベのバルブを恐る恐る少しずつ開けて冷却器に通気したところ受け器排出口から強烈な臭いのSO2ガスが放出されたのである。
原因は、冷却不足であり、この悪臭騒ぎが元で実験は中断、屋外実験を言い渡されたのであった。
かくして、紆余曲折がありながらも、高濃度のSO2-ピリジン溶液は完成したのである。
発生液アクアエントAおよび対極液アクアエントCの開発
将来のKF電量滴定による測定対象として、一般試料からアルデヒド、ケトンおよびアミン類などのKF反応を妨害する試料の測定を考慮し、発生液の構成をSO2-ピリジン-ヨウ素成分として、これを脱水メタノールなどの溶媒で加えて使用することになった。
ヨウ素成分として何を選ぶべきかヨウ化メチル、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムなどの各種の試薬を試験した結果、ヨウ化メチルはヨウ素への電解効率が悪いこと、ヨウ化カリウムはピリジンには溶解しないがSO2-ピリジン溶液に溶解できることが分かった。
最終的には、発生液の成分としてSO2-ピリジン-ヨウ化カリウムを、試薬の吸湿を考慮して30mLの褐色ガラス製のアンプルに封入し、アクアエントAとして商品化に成功した。
後に、この発生液は特許として出願すると同時に、分析化学誌に報文として発表された(分析化学,23,476(1974))。
一方、対極液については、脱水メタノールに電解質として、発生液と同じ成分であるヨウ化カリウムを溶解した溶液を30mLのガラス製アンプルに封入し、アクアエントCとして商品化したのである。
微量水分測定装置 AQ-1の試作設計
電解液の開発に並行して、水分測定装置の設計が行われ、1970年(昭和45年)8月頃試作機が完成した。
製品名は微量水分測定装置 アクアカウンタAQ-1と命名された。
AQ-1は当時の最先端の部品が使用され、表示機としてデジタル4桁のニキシー管を使用し、増幅器には市販間もない東芝製のオペアンプTA7504が使われた。このオペアンプは当時の価格で5,000円であったと思われ、学卒の初任給が20,000円であったことからして、相当高価な部品であった。回路は十数個のリレー回路で構成され、操作シーケンスが構築されていた。
微量水分測定装置 AQ-1の発売開始
KF電量法による水分測定装置としては、日本で初めて開発された装置であり、測定精度が高く誰にでも測定が簡単に行える特長を備えていることから、販売開始早々、引き合いが殺到した。
AQ-1の販売は軌道に乗り、約10台/月のペースで進行した。装置の出荷に伴い、消耗品である発生液と対極液の受注量もうなぎ上りに増え、発生液と対極液を合わせると約1,500本/月の生産が必要で、実験用に試作したSO2 -ピリジン溶液製造装置では追いつかない状態にまで達したのであった。
その後、各社からもKF電量法による水分測定装置が発売され、現在では水分測定の主流となったが、AQ-1は、まさに水分測定の未来を変える製品となったのである。